大判例

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名古屋高等裁判所 昭和56年(ラ)141号 決定

抗告人

株式会社ゴールドクレジット

右代表者

野村之弘

右代理人

二見敏夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、本件不動産競売手続を開始し、本件不動産を差押える。」との裁判を求めるというにあり、抗告の理由は、別紙「執行抗告理由書」記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一当裁判所も、原決定の結論は相当であると考えるが、その理由は、次のとおり付加するほか、原決定の理由説示と同一であるから、これを引用する。(ただし、原決定一枚目表九行目の「別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)」を「原決定添付の別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)」と訂正し、同一六行目の「確定したこと」を「確定し、その旨債権表に記載され、破産者も異議を述べなかつたこと」と改める。)

二(1)  破産法七〇条一項本文に仮差押の実行手続は破産財団に対してはその効力を失うとあるのは、いかなる関係においても絶対的に無効となるというのではなく、破産管財人が破産財団に属する財産を換価する障害とならないよう同条に示すとおり破産財団に対する関係においてのみ相対的に無効とするものであつて、後に破産が廃止となり、破産財団が消滅するに至つた場合に、仮差押の目的となつている財産が破産者の所有に残つていたときには、仮差押は当然に回復することになる。このため、破産宣告がなされても執行裁判所は破産宣告前の仮差押登記の抹消登記を嘱託することはできないものと解される。従つて、破産法七〇条一項本文による仮差押の失効は民事執行法八七条二項にいう「仮差押えがその効力を失つたとき」に当らないことが明らかである。

(2)  仮差押の請求債権が破産手続において確定し、破産者が異議を述べなかつたときは、債権表の記載は破産者に対し確定判決と同一の効力を有するから(破産法二八七条一項)、本件仮差押債権者が本案の訴訟において敗訴(民事執行法八七条二項)することはあり得ず、抗告人その他の第三者が代位弁済しない限り本件仮差押がその効力を失うことも考えられない。従つて、第三者が代位弁済したことのない本件では、抗告人は本件申立にかかる競売手続において配当を受けられないことが明らかである。

三そうすると、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(瀧川叡一 早瀬正剛 玉田勝也)

〔執行抗告理由書〕

本件執行抗告の理由は下記のとおりである。

原決定は破産法七〇条一項本文及び民事執行法八七条二項の解釈適用を誤つている。

一 原決定は、破産法七〇条一項本文の趣旨は、「仮差押は破産財団に対する関係では効力を失うが、仮差押に後れる抵当権者に対してはなお対抗しうるというものであるから、破産法七〇条一項本文による仮差押の失効は民事執行法八七条二項にいう『仮差押がその効力を失』う場合にあたらない。」としている。

(1) しかし、破産財団に対してなされていた仮差押は破産宣告により当然効力を失い、仮差押の記入登記は執行裁判所の嘱託により抹消されるべきものであり(石原辰次郎・全訂破産法和議法実務総攪一五一頁)、当該仮差押がある者に対しては効力を失うが、ある者に対しては対抗しうるなどということはありえない。

本件不動産は破産財団に属するから、本件仮差押は破産法七〇条一項本文により当然に失効し、民事執行法八七条二項の「仮差押がその効力を失つた」場合に該当する。

(2) 仮差押の債務者が破産宣告を受けた場合、仮差押債権者は破産債権者として破産配当を受けるほかはないが、抵当権者は別除権の行使により満足を得られる地位が保障されているのであり、破産手続が開始された以上、仮差押に後れる抵当権であつても、換価権能に基づく優先的地位は保障されるべきであり、別除権の行使を妨げられるいわれはない。

(3) 最高裁判例(昭和四五年一月二九日第一小法廷判決)は、仮差押の債務者がのちに破産宣告を受けたときは、仮差押の執行は破産財団に対しては効力を失い、仮差押の排除を求める第三者異議の訴はその利益を有しない、としている(民集二四巻一号七四頁)。

ところが、原決定の考え方によれば、仮差押は、仮差押債務者が破産宣告を受けても、仮差押の目的物について所有権を主張する者に対してはなお「対抗しうる」というべきであるから、所有権を主張する者は第三者異議の訴を提起する利益がある、ということになろう。原決定は前記最高裁判例と矛盾するものである。

2 原決定は、また、「本件においては、申立人の抵当権に優先する仮差押債権者の請求債権は破産手続における確定を経ているのであるから、……民事執行法八七条二項により本件申立にかかる競売手続内では配当を受けられないことが既定である者からの競売申立ということにな」り、不適法である、としている。

(1) しかし、本件不動産が破産財団に属する限り、本件仮差押の請求債権が破産手続で確定されても、本件仮差押が破産法七〇条一項本文により失効することに変りはなく、本件仮差押が本執行に移行することはありえないし、また、破産管財人がこれを続行することも許されず、それ故、本件仮差押の記入登記は前記のとおり抹消されるべきものである(石原・前掲書一四九頁・一五一頁、なお、裁判所書記官研修所編・民事実務の研究(一)二九七頁)。

かように、本件破産宣告後においては、本件仮差押が本件不動産に対する強制執行にまで進むことはありえないのであるから、本件仮差押が先行し、その請求債権が確定しても、そのことは、本件競売手続を開始するにつき何ら障害となるものではない。

(2) もともと、仮差押に後れる抵当権も、それ自体は売却によつて初めて効力を失うのであり(民事執行法五九条二項)、先行の仮差押が本差押に移行したからといつて、直ちに効力を失うものではなく、なお抵当権の換価権能は存するのである(南判事・判例タイムズ四一八号一一頁)。

まして、本差押に移行する余地のない仮差押が先行しているにすぎない本件において、本件競売申立にかかる抵当権の換価権能が全く奪われてしまう理由はないというべきである。

(3) のみならず、原決定は、本件仮差押が代位弁済等により取消された場合には、本件競売手続内で配当を受けることを認めるのであるから、本件競売申立を却下すべきでないことは明らかである。

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